2012年09月30日

人生を変える宿


本日は、ブランド・サルベージ代表
松尾公輝が執筆させていただきます♪



「女将になるために生まれてきた」

福島県福島市穴原温泉

 匠のこころ 吉川屋

 畠ひで子さん



1、子育てと接客の日々、大旅館をきりもり


福島県福島市にある奥飯坂穴場温泉は、県都の近くにあって大自然にも
恵まれた「山紫水明の別天地」で、水と音楽の女神に導かれた
「かむろみの郷」と呼ばれています。

そしてこの地には、吉川屋という名旅館があり、そこに、僕だけではなく
多くの人たちが、日本を代表する女将さんと信じる女性、
畠ひで子さんがいらっしゃいます。

「女将の仕事が生きがい」とは、畠女将がよく口にする言葉であり、
「この人は本当に旅館の女将になるために生まれてきたような人だな」と
僕も想っています。

畠女将が日々忘れない使命は、「社員にイキイキと働いてもらうには
どうしたらいいか?お客様に満足してお帰りいただくにはどうしたら
いいか?」ということですが、短くてありふれたこの言葉の中に、
商売の本質があると感じます。

商売とはシンプルですね。実にこのふたつを日々考え、現場に実現
すべく行動するだけなのです。

旅館に嫁いで三十数年が経ちましたが、はじめの十年は流石に辛かったと
言います。畠女将をして、「何度も家を出ようと想いました」ということですから。
それでも三人のお子さんを育て、3度に渡る大きな増改築を重ねてきました。

収容700名を超える大旅館に成長した吉川屋の従業員は、パートを
入れると180名にものぼります。

畠女将は言います。「スタッフの家族も入れたら600人以上いるし、
お取り引きしていただいている業者さんのことも考えるともっと
沢山の方々から助けられていますからね。

こうしたご縁ある皆様に対して、毎日感謝し、毎日ご恩返しをするのだから、
女将家業は大変です。でも、社員の皆さんのことも、自分の子供たちだと想えば、
大変だなんて言っていられません。」

どうしてそんなに頑張れるのですか?という僕の質問には次のように
答えてくれました。

「私は負けず嫌いなのよ」とはにかんでから、「でもやっぱり、
主人(畠隆章社長)の優しさに助けられたからだと感謝しています。

私を認めてくれて、館内をある程度任せてもらえているから、やりがいに
つながっているのです。」

そんな畠女将が、旅館や女将業をユニークに例えてくれました。

「旅館を車に例えるとボディは建物、車軸は社長、両輪は社員、そして
女将は潤滑油ね。アクセルやブレーキをうまく使って、全社員ひとつになって
お客様に安らぎと優しさを与えられたらなと想います。」

徹底しているのは「社員研修」です。

経営で最も大切なことは「教育の力」だとおっしゃいます。特に
サービス業における「接客」という商品は、「その場で消費される」という
特徴を持っていますから、社員ひとりひとりの実践がすべてです。

接客基本用語は身体に染み込むまで日々唱和。お辞儀の角度もTPOに
合わせて完璧を目指します。そして笑顔と発声は、無意識レベルまで
落とし込んで行きます。

研修で重要なこと、外してはならないことは「みんな一緒に、時を
逃さすにやる。」とのこと。

誰かが欠席していたりしては、本来の教育効果を発揮することは難しいのですね。



2、出逢いのもたらすもの


僕と畠女将との出逢いは、平成7年にまで遡ります。
僕が販促企画提案を行う営業マン時代で、当時は吉川屋大型設備投資計画
まっただ中でした。設計建築から関わらせていただき、ロゴマークや
キャッチフレーズづくり、営業ツールや露出メディア選定、さらに館内パブリック各所の
名称からユニフォームやアメニティー消耗品に至るまで、
トータルでお仕事をさせていただいたのです。

グランドオープンの平成8年8月の前後1年間は、まさに三日と置かずに
打ち合わせをした想い出が蘇ります。

仙台をベースに車で営業していた僕は、ある冬の日、大雪で福島に
立ち往生したときがありました。

「今夜中に仙台に戻ることはできそうもないな」と想った僕の脳裏に浮かんだのは
畠女将の笑顔。

大勢のお客様をお泊めしているのは分かっているものの、ダメ元で
旅館まで辿り着きました僕に畠女将の優しいひと言は嬉しかった。

「大丈夫だから泊まって行きなさい。
 お膳は無いけど夕食なら和食処で
 好きなものを食べていいからね」

「一宿一飯の恩義」と言いますが、僕の場合は、次の日、なぜか
「お土産」までいただいていますから、「一宿一飯一土産の大恩」
です。

文章で書くと、大雪で立ち往生したところ、泊めてもらったという
だけなのですが、本当に涙が出るほど嬉しかったのです。それは何
故でしょうか?

おそらくは「人として当たり前の優しさ」に触れたからだと想っています。
損得も賢愚もない、善悪すら超えたところの「優しさ」。
これに触れたとき人は、与えてくれた相手を忘れることができません。

ところで吉川屋さんほどの大きな旅館になると、お取り引き業者さんの数も
相当数になります。

そうした方々とは、吉川屋さんが企画した新春パーティーや情報交換会などで
お会いすることも多いのですが、実に100社以上200名近い人たちが
集まることになります。

いろいろな会話の中で、「やっぱり」と想うのは、女将さんに対して
恩義を感じている人の多さです。お客様を含め、年間十万人単位の人と
触れ合う畠女将さんの、小さな、しかし絶え間ない行動が、長年の間に、
大きなご縁の輪を作ってく。

ここに商売の肝があるのです。



3、飯坂から福島、そして東北を代表する宿へ


「大地震」「大津波」「原発事故」「風評被害」

2011.3.11の東日本大震災が与えたこの四重苦により、福島県は今後、
数十年単位の取り組みを余儀なくされています。

2012年現在、人口は33年ぶりに200万人を割り、7万人近い人たちが
県外へ流れ、その内4万人は住民票も移してしまいました。

幼稚園も小学校も定員に満たない地区も多くなっていますし、仮設住宅や
借上アパートに入っている人たちも9万人以上いるという実情にあっては、
旅行者も激減してしまいました。

吉川屋さんは原発から78km離れており、緊急性のあるエリアにはないものの、
この創業170年を超える宿にとっても、今後の経営は深刻な局面を迎えています。

しかしながら畠女将さんは言います。「こんな状況だからこそ、宿ができることを
最大限やってゆきたい。宿とは、人の命を預かる場所だから」。

震災当日の吉川屋さんの動きは素晴らしかったと想います。

年に2回と義務付けられている避難訓練も、吉川屋さんの場合は、
防火防災訓練合わせて年に6回も実施しておりましたのでソフト面、
ハード面の体制は限りなくベターでした。

地震発生からわずか20分で、ツイッターに「お客様の避難完了」
を発信するというスピード。

非常用電源が稼働し、地下の貯水タンクにも充分な量が確保されており、
当日も、固形燃料を使い温かい食事をお客様に提供できました。
翌日には大型バス2台もチャーターして、団体客を東京まで送り届けるなど、
非常時の対応の速さ、的確な判断に対して、お客様からの感動のお手紙が
多数届いたのです。

その後も、被災者や警察隊、数百人の受け入れを継続的に行い、非常時期間でも
快適に過ごすための滞在ルールを取りまとめたり、1週間に1度の割合で
歌謡ショーや漫談などを企画実施して、滞在者の心を癒してきました。

当時の滞在者が、ふたたび宿を訪れる人が多いのも、こうした全社一丸となった
取り組み、心配り、おもてなしに感動したからに他なりません。

震災前の営業会議では、「売上をどう創るか」がテーマでした。もちろん経営ですから
それは当たり前です。でも、震災後は「どうしたら地域の役に立てるか、
どうしたらお泊りの皆様の心身を安らげる場所になれるか」というテーマが
大きくなったと言います。

千年に一度の大震災は、商売のあり方を本質的に変えました。ともすれば
「贅沢消費」に分類される旅行という商品ですが、その本質は
「明日への活力をお持ち帰りいただくこと」だったということを、
大震災をきっかけに気づき、想い出すことになったのです。

人々がイキイキと生活し、力いっぱい仕事をするための、なくてはならない産業。
それが旅館業であることに気づかされたのです。

今、若き七代目が育ってきています。

現代的センスとユニークな発想、そして、彼ならではの才能を開花させながら、
創業二百年に向けて、東北を代表する宿として、力強く羽ばたこうとしています。

彼は言います。

「スタッフの皆様、取引先様、
 お客様の人生を変える宿を創りたい」。

・・・・・人生を変える宿とは、大変なコンセプトですが、畠女将さんの息子なら、
僕らに新しい感動を、これでもかとばかりに提示してくれると確信しています。




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Posted by しるばーうるふ at 17:12│Comments(0)しごと
 
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