再び「母の席に座ってください」

しるばーうるふ

2011年01月30日 20:46

知識人・読書人の月刊誌と言われている『致知』は、
創刊以来32年間、書店での販売はない契約購読を貫いていますが、
僕が「父の授業」で教材に使ったエピソードを、ここに再録します。

僕は以下の話を、クラスの子供たちに、ちょっとづつ音読させてから、
少しばかりの解説をしたのです。


「その人の今だけを見て、その人のすべてを判断するな」と。


 人間のなんたるかが、パーフェクトに語られています。
 僕が、この人生で大切にしているエピソードです。
 ぜひ、何度も何度も、お読みいただきたいと想います。


【ここから】


その先生が五年生の担任になった時、
一人、服装が不潔でだらしなく、
どうしても好きになれない少年がいた。

中間記録に先生は少年の悪いところばかりを
記入するようになっていた。

ある日、少年の一年生からの記録が目に留まった。

「朗らかで、友達が好きで、人にも親切。
 勉強もよくでき、将来が楽しみ」

とある。

・・・間違いだ。

他の子の記録に違いない。先生はそう思った。

二年生になると、
「母親が病気で世話をしなければならず、時々遅刻する」
と書かれていた。

三年生では
「母親の病気が悪くなり、疲れていて、教室で居眠りする」

後半の記録には
「母親が死亡。希望を失い、悲しんでいる」

とあり、四年生になると
「父は生きる意欲を失い、アルコール依存症となり、
 子供に暴力をふるう」


・・・・先生の胸に激しい痛みが走った。


ダメと決めつけていた子が突然、

深い悲しみを生き抜いている生身の人間として

自分の前に立ち現れてきたのだ。


放課後、先生は少年に声をかけた。

「先生は夕方まで教室で仕事をするから、
 あなたも勉強していかない?分からないところは
 教えてあげるから」

少年は初めて笑顔を見せた。

それから毎日、少年は教室の自分の机で予習復習を
熱心に続けた。

授業で少年が初めて手をあげた時、先生に大きな
喜びがわき起こった。

少年は自信を持ち始めていた。


クリスマスの午後だった。

少年が小さな包みを先生の胸に押しつけてきた。
あとで開けてみると、香水の瓶だった。

亡くなったお母さんが使っていたものに違いない。
先生はその一滴をつけ、夕暮れに少年の家を訪ねた。

雑然とした部屋で独り本を読んでいた少年は、
気がつくと飛んできて、先生の胸に顔を埋めて叫んだ。


「ああ、お母さんの匂い!
 今日はすてきなクリスマスだ」


六年生では先生は少年の担任ではなくなった。

卒業の時、先生に少年から一枚のカードが届いた。

「先生は僕のお母さんのようです。そして、
 今まで出会った中で一番すばらしい先生でした」

それから六年。
またカードが届いた。

「明日は高校の卒業式です。
 僕は五年生まで先生に担任してもらって、
 とても幸せでした。
 おかげで奨学金をもらって医学部に進学する
 ことができます」

十年を経て、またカードがきた。

そこには先生と出会えたことへの感謝と父親に叩かれた
経験があるから患者の痛みが分かる医者になれると記され、
こう締めくくられていた。

「僕はよく五年生の時の先生を思い出します。
 あのままだめになってしまう僕を救ってくださった
 先生を、 神様のように感じます。

 大人になり、医者になった僕にとって最高の先生は、
 五年生の時に担任してくださった先生です」

そして一年。

届いたカードは結婚式の招待状だった。


  「母の席に座ってください」


と一行、書き添えられていた。


【ここまで】


この先生は、
この生徒によって、
本当の先生になったのだと想います。


松尾公輝


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